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ワンド・オブ・フォーチュン【エスト】

第1章 あなたという光


どんなに平静を装おうと、心はヒドくかき乱される。
そしてそんな状況を満更でもないと思うようになるなんて。

「それは何度も聞きましたから、今更言わずとも分かっています。ですから、取り敢えず退いて貰えませんか?」

僕も同じように大好きなのだと、言葉に出来たらいいのに。
未だ自らの想いを言葉にする事に躊躇いを覚える。
僕が好きだと言葉で縛ることが、あなたを闇へと墜とす事になる気がして。

「あっ、ごめんね?」

少し名残惜しそうに立ち上がったあなたは、何を思ったのか、その手を僕へと差し出した。

「なんですか?その手は」

「はい。捕まって、エスト」

「はっ?」

☆☆の意図する所が分からず固まる僕に、それでも尚、手を差し出す。

「早く、エスト!」

待ちきれないとばかりに、困っている僕の手を掴んでしまう。

「あっ、☆☆。手が汚れて…」

泥に手をついて汚してしまった僕の手を躊躇いなく取る☆☆。

「大丈夫!」

ニッコリと微笑み返されてドキっとして、僅かに目を逸らす。

「エスト…もしかして照れてる?かっ………」

「☆☆、僕の勘違いだとは、思うのですが、あなた、今、可愛いって言おうとしませんでしたか?」

この上なく意地の悪い笑みで返すと、

「ちっ、違うわ!言ってないもの!」

慌てて返すあなた。
そしてそのまま僕の手を引いて、歩き出す。

「だから、汚れてしまいますよ?」

「洗えばいいもの!それより私は、エストと手を繋ぎたいの」

恥ずかしげもなく言ってのける。
その言葉が嬉しくて、けれど恥ずかしくて。
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