第1章 あなたという光
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「今回は、いえ、今回も、僕には怒る権利がありますよね?」
あなたに飛びつかれて倒れた僕は、上半身を僅かに起こし、頬に跳ねた泥を拭いながらも、出来る限り冷静に訊ねた。
「ちっ、違うの、エスト!誤解なの!」
「何が誤解なんですか?この状態をあなたはどう申し開くと言うのです?」
慌てるあなたは、それでも僕を押し倒すような体勢になっているのに、僕から離れようとしない。
ここは学校で、授業を終えた生徒たちが寮へと急ぐ最中、こんな体勢で泥まみれの僕の身にもなってもらいたい。
それでもこのミルス・クレアでは、あなたに飛びつかれて転倒するという僕たちの光景は、最早日常茶飯事となりつつある。
転倒を恐れて、あなたの姿を見るなり逃げ出したとしても、「逃げるのも仕方ない」そう誰もが納得してくれるほどに。
よく言えば素直、悪く言えば単純な僕の恋人は、僕を見つけると見境なく飛び込んで来る。
『ちょっと☆☆。エストさんの事が大好きなのは分かるけれど、そう毎回飛び付いて怪我をさせるのは、どうかと思うわ』
彼女のルームメイトがやんわりと諌めてくれた所で、
『だって、本当にエストが大好きなんだもの』
と笑顔で返す。
その言葉の破壊力など、知りもしないで。
『だから、怒らないで、エスト!』
転倒させられ、こぶを作られて。
全力で怒りたい状態の僕に、その笑顔もそのセリフも反則だ。
これじゃ、怒りたくても怒れない。
あなたはいつだって、全力で想いをぶつけてくる。
そんなあなただから、こんなにも惹かれたのに。
それでも、まだ僕は、あなたのそれと同じだけの想いをぶつける事が出来ない。