第5章 【青春は、死ぬまで終わらない】
鼻先に吐息をかければ、ガイさんはふるりと髪の毛を揺らした。
「私は…あなたに救われたんです」
ストーカーの性欲に晒され、体を汚されそうになったあの事件は、今でも悪夢として夢に見る。
夢野の一族として一生愛すと決めた相手以外に、ましてや幼女の頃に処女を奪われるなど、命を奪われるのも同然。
「私はいつも怯えていた…今思い出しても、体が震えるの」
「…何の、事だ?」
やはりガイさんは覚えていないようだ。
でも、それでも、良い。
「恐怖に心が竦むとき、私をいつも励ましてくれたのは──ガイさん」
そっと、ガイさんの胸元に触れる。何て温かいのだろう。
「あなたの笑顔だったんですよ」
ナイスガイポーズで歯を見せて笑うあなたの笑顔が、何度私を救ってくれたか。
「…ガイさんは、もう…私の心の支えなんです…あなた以外には考えられない…ガイさんが他の女と結婚するなんて、許せない…」
「……オレは、お前が言うほどモテる男じゃ……」
ついに涙をこぼし始めた私に、ガイさんは僅かに笑みを浮かべながら私の頭を撫でてくれた。
どうして彼は恋愛事には消極的なのか。
普段あれだけ満ち溢れている自信は、どこになりを潜めているんだろう。
私は、涙を拭いてガイさんの瞳を見つめた。