第2章 サヨナラのあとで
最近、忘れるペースが早くなってる気がする。間隔が短くなってる気がする。
一番怖いのは、ひかりを忘れてしまうことだ。
こんなに好きなのに、大事なのに、それすら忘れてしまうのだろうか。
抱いた時の柔らかく温かい肌の感触も、「智。」と呼ぶ声も、息遣いも。
俺を見つめる茶色の瞳も、サラサラとした髪も。
いつかは記憶から消えてしまうのだろうか。
イヤだ。
身震いしながら、何枚もスケッチを重ねる。
雨の匂いがした。
ひかり 「あ、外に智の靴干したままだ!」
慌ててひかりが玄関に走る。
後から俺も付いて行く。
ドアを開けると、少し強くなった雨脚がアスファルトを流れていく。
チョークで描かれた絵も雨と一緒に削れて流れていく。
何描いてたんだっけ・・・・
ひかりが俺の手を握る。
横で手を繋ぎながら寝てるひかりを見ながら、どうしたらいいのか考える。
毎晩毎晩。
いつか恋人のことすら忘れてしまうかもしれないようなヤツと一緒にいてもツライだけだよな。
本当は別れた方がいいこと、分かってる。
でも、俺弱いから。
ひかりと離れたくないから。
俺がもう少し強ければ、強くありたいと願えば、ひかりにとって一番いいカタチを選んでやれるはずなのに。
そう思う度に、自分が臆病だと思い知らされる。
こんな風に考えてたことだって、いつかは忘れてしまうくせに。
出るはずもない答えを探し疲れて、徐々に白い世界が覆い被さってくる。
そして今日も答えを見つけられずに、眠りに就く。