第2章 サヨナラのあとで
ひかり 「うわぁ・・・・・また増えたねぇ(笑)」
暗室の写真のように部屋の上部に張り巡らせた紐にぶら下がる、おびただしい数のスケッチ。
2間の部屋にもキッチンにも、それらがまるで天井かと思うくらいぶら下がっている。
壁なんて見えないくらい埋められている。
それは、記憶のスケッチだ。
1時間前に食べたメロンパン。
3日前にTVで見たチョモランマ。
1か月前に出掛けた芦ノ湖。
5枚に1枚くらいの割合でひかりの顔。
全てに日付と時間と名称が書き込まれている。
全てが俺の記憶の断片。
俺の記憶は、時間と共に消えていくから。
全部が消える訳でなく、毎日会う人なんかは割と覚えてる。モノの名前とかもまぁまぁ覚えてる。
覚えていられないのは、ほとんどは行動。
どこに行ったか。
誰といたか。
何を思っていたか。
数時間後には靄がかかったようにおぼろげになる。
だから、描く。
記憶を手繰り寄せるために。
できるだけ留めておくために。
だけど、消えてしまう。
俺が見てた世界は白い霧に飲みこまれる。