第13章 Tears
他にもたくさんあるはずなのに、いつも脳裏に浮かぶ二人は、ある光景の中。
ホテルでも、俺の部屋でも、店の中でもなく、冬が近い秋の夜空の下。
空も海も漆黒で境界線はなく、水面にはライトの星がさざめき、頭上ではそれが反射したかのような星が瞬いてた。
ひかり 「・・・・・ふふっ(笑)」
ひかりが小さく笑った。
翔 「何?」
ひかり 「ううん。何だか急に嬉しくなっちゃって、つい笑っちゃった(笑)」
翔 「何だ、それ(笑)」
ひかり 「分かんないかなー、こういうの(笑)」
クスクス笑うひかりから、微かに白い息が洩れる。
ひかり 「ちょっと寒いね。」
指先をこすり合わせる。
俺のジャケットを羽織らせてやると、前立て部分をキュッと掴んで顔半分を埋めながら大きく息を吸った。
ひかり 「いい匂い。」
翔 「タバコの匂いだろ?(笑)」
ひかり 「うん(笑) タバコといつもの香水の匂い。」
チラッとこちらを見て笑う。
ひかり 「大好きな匂いなの。」
抱きしめて、ひかりの香りを吸い込む。
そっちの方がずっといい匂いだよ。
ひかり 「カシオペア座。」
翔 「ん?」
ひかり 「カシオペア座が見える。知ってる?カシオペア座って北の空の目印なんだって。」
俺の肩越しに見える星の話が、髪をくすぐりながら耳に届く。
ひかり 「ある事件でね、海神ポセイドンの逆鱗に触れちゃったどこかの国の王妃さまが、椅子に座ったままの姿で空に貼り付けられて。それが、あの星座なんだって。」
翔 「へ~ぇ。」
ひかり 「罰として、一年中ずっと休む間もなく北の空をグルグルと回り続けなきゃいけないって。」
カシオペア座を見上げる黒い瞳にも、星が光る。
それを覗き込むようにキスをした。
記憶にいつも浮かぶのは、夜空に浮かぶような二人の姿。