第1章 Pr.人嫌いの狼少女
「なんで」
「ん?」
「なんで、私なの?行き詰まっちゃって、これ以上生きてもどうしようもなさそうな、私なの」
彼はうーん、と態とらしく挟んでから口を開く。
「僕らはね。人の幸福のために動いてるんだ」
「人の……しあわせ?」
「そ。だから、特に《幸せを知らない》人のところに来てるわけ。頭の良さそうな君ならわかるでしょ?」
「あ、うん……」
たしかに。
間違ってはいない。
私は「幸せ」というものが、一体なんなのかを知らないのだから。
「……」
「僕らの優しい優しい女王様は、幸せを知らずに死んでしまった人をもう一度蘇らせて、幸せを教えてあげるってことをして過ごしてるんだよ」
「……ふうん……」
多少興味はある。
けれど、私にそれをする必要は、ない。
「私、いらないんだけど」
「でも残念ながら、規則なんだよね。……一回その人の所に来ちゃったら、僕らは30日間は帰れない」
「……30日」
一ヶ月、新学期も始まって中頃か。
「……ねえ、カノ」
「なんだい、ライちゃん」
「少しぐらいなら、乗ってもいいけど」
私が言うと、彼はパッと表情を明るくした。
「やーよかったよー。君が了承してくれるまで、僕ら、ここからでられなかったからね」
「へ……そうなの」
口を開けてぽかんとする。……そうならそうと、早く言えばよかったのに。
「とりあえず、僕はこれから君の保護者として君のそばにいさせてもらうから。よろしく」
よろしく、と言って手をひらひらを振る青年に、私も反射的に「よろしく」と手を振っていた。
──こうして、私と彼の、奇妙な二人暮らしが幕を開けることになった。