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道化師恐怖症。

第36章 道化師は雨の中、月明かりの下に





「そんなことないよ。
私だって赤也くんと居て緊張したり
ドキドキしたりしてるよ?」

「ぜってぇ嘘だ」

「あー!そーゆーこと言うんだー。
それならもう1人で帰っちゃおうかな」

「え…」

「小雨になってきたし、今なら帰…」


言いかけた言葉は最後まで言わせて
もらえなかった


人が人に触れることでしか
感じられない温かさ

私よりずっと大きな身体に包まれて
濡れてしまった冷たい制服と、彼の匂い


腰に回された手に
少しだけ力が入ったのが分かった


「赤…」

「雨、まだ全然止んでねぇっす。
これっぽちも止んでない。だから、」



帰るなんて言わないで。



子犬の鳴き声みたいに消え入りそうな
小さな小さな呟き


本当にこの人は…


「…そうだね。全然雨がやまないから
まだ帰れないね。
意地悪してごめんね。赤也くん」

「蒼先輩の意地悪は
今に始まったことじゃねぇし」

「はは!それは正解」


少し彼の身体から身を離して
顔を見上げると
その顔は少し泣きそうだった


ふわふわのくせっ毛を
くしゃくしゃと撫でるとまたもや
唇を尖らせる


「なんか犬扱いされてねぇ?」

「してないしてない。
…じゃあ意地悪しちゃったお詫びに
赤也くんに1つ、言葉を送ろうかな」

「なんすか?」


これはわりと有名な言葉だから
赤也くんも知って…ないかな

そういうのに興味無さそうだし


「赤也くん。
〝月が綺麗ですね〟」

「は?今まだ昼間っすけど」


予想通りの答えだ
うん、やっぱり知らないと思った


「言葉のままの意味じゃないよ。
分からないなら調べておいで」

「蒼先輩は教えてくれないんすか?」

「うん。教えてあげない。
だって意地悪だもん」

「根に持ってる…?」

「どうだろ?
ほら、雨もあがったよ。一緒に帰ろう」


右手を差し出すと
何となく納得いかないような顔で
それでもぎゅっと握ってくれた



*

次の日、学校で赤也くんは


「蒼先輩!!!
俺も!俺も月が綺麗です!!!」


なんて意味分からないこと言い出すから
正解の意味でお返し


「私、死んでもいいわ」

「え!?
死ぬなんて言わないでくださいよぉ!!」


これにも意味はあるんだから

宿題だよ
また調べておいで




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