第3章 人気者
「俺達以外にも、同性の友達作ればいいだろ」
そう言うと椎名は若干顔を曇らせた。
「友達…………」
考えるように俯いてしまい、余計なお世話だったかと後悔する。
「もう、なに言ってんの燈斗くん。
椎名さんに他の友達できたら僕妬いちゃうよ」
八尋が冗談めかして、場を和ますようにそう言った。
椎名は一瞬ポカンとして首を傾げる。
「…………私に友達できると、ヤヒロは嫌なの?」
「嫌じゃないよ。椎名さんに友達できるのは嬉しい。
でも、そのせいで僕らのそばから離れてっちゃうのは寂しいな」
よくもそんなこっぱずかしい台詞をサラサラと言えるもんだ。
キョトンとしていた椎名は、言葉の意味を理解したのかフッと表情を和らげた。
「……私はヤヒロのそばを離れたりしない」
「…………へ?」
「一緒にいる」
今度は八尋がポカンとする番だった。
しばらく呆然としていたが、ハッとなって一気に頬を赤く染める。
「…………なんか告白されてるみたいでドキドキしたよ」
……こいつは自分は恥ずかしいことをサラリと言ってのけるくせに、人に言われるのは慣れていないのか。
えへへと照れ隠しのように頭をかくと、八尋はありがとうと椎名に微笑み返した。
「……授業もうすぐ始まるから、私はこれで」
「あ、うん。僕たちも行かないとだね」
そう言って八尋は「じゃあね」と椎名に手を振り背を向けた。
俺もそのあとに続こうとして、クイッと服の袖を引っ張られる。
「……トート、授業頑張って」
「…………ああ」
心底めんどくさいと思っているが、俺はとりあえずそう頷いた。