第3章 人気者
あの日から、約束通り俺たち四人は屋上で昼休みを過ごすようになった。
屋上なら滅多なことがない限り他の生徒がくることもないし、普段校内にいると自然と目立ってしまう椎名も気が楽なようだ。
初対面の相手だとうまく喋れないと本人が言っていたように、共に過ごす時間が長くなると椎名は前よりも色々話してくれるようになった。
それに俺も、彼女の微妙な表情の変化に気づくようになった気がする。
それは多分、彼女も俺と同じであまり感情を顔に出さないタイプだからだろうか。
「椎名さぁん!」
廊下を歩いていると前に椎名の姿が見え、隣を歩いていた八尋が声をかけた。
くるりと椎名が振り返り、八尋と俺の姿を見るとふわりと表情を和らげる。
「ヤヒロ、トート」
小走りで俺たちのもとに走ってくると、きょとんと首を傾げる。
「移動教室?」
「うん。珍しく燈斗くんが教室に来たから、これから引っ張って授業につれていくとこ」
椎名はチラリと俺を見て、口元を緩める。
「…………ヤヒロ、トートのお世話係みたい」
「あはは、確かにそうだね」
二人の会話に知らず眉を寄せる。
「…………トート、顔恐い」
「……俺は元々こういう顔だ」
そう言うと椎名はさらに表情を緩くした。
そんな様子を見ていた通りすがりの生徒が、緩んだ椎名の表情を見て驚きに目を見張っていた。
それもそうだろう。
彼女がこうして表情を緩めてくれるのは俺たちの前だけなわけで、普段の彼女ならどこであっても無表情を貫き通しているのだから。
「……トート?」
じっと見つめていると、彼女はこちらを見上げ「なに?」と視線で問いかけてくる。
「……お前、他の生徒の前でも笑ったりすりゃいいのに」
そう言うと、椎名は目を丸くした。
「…………どうして?」
「そしたら色んな人と仲良くなれるだろ」
ここ数日椎名と過ごす時間が増えて気づいたが、彼女は俺達以外の奴と話していることが極端に少ない。
話しかけられても短い返事や頷くなどの動作のみで、必要以上に他人と関わろうとしない。
それに「白雪姫」と呼ばれる人気者だからこそ、彼女に話しかけにくい雰囲気もあるのかもしれない。
生徒は彼女の姿を遠巻きに見つめるだけで、よっぽどのことがない限り話しかけてこないのだ。
おそらく椎名には、俺達以外にまともに話せる友人などいないのではないかと思う。