第94章 【矢巾 秀】恋に恋して
「ねぇ、ひろか?ひろかはさ、恋がしたいって言ってたけど、例えばどんな事をしたいの?」
「えっ・・そうだな~。学校帰り寄り道したり、用事の無いLineをしたり、寝る前の電話したり、その・・キスとかしたり?」
ハハと照れながら佐藤は笑った。
「そっか。じゃぁさ、それを誰としたいの?」
「えっ?誰と・・?」
「何をしたいか。じゃなくて、誰としたいか。なんじゃないの?」
佐藤は理香の言葉に頭を悩ませた。
今まではとにかく少女マンガのようなドキドキする恋をしたいと思っていた。が、誰としたいか。とは考えたことがなかったからだ。
「ねぇ、理香はさ、男友達多いじゃん?友達として好きと男の子としての好きの違いって何?」
「そうだね・・。相手とキスする想像が出来るかどうか。・・かな!」
「キッ、キス!?」
動揺する佐藤に理香は、ふふと大人びた笑いを見せた。
「理香はキス出来る男友達とか・・いるの?」
「・・秘密!」
えぇー!と前のめりになる佐藤をなだめ、二人は店を出た。
「はぁ・・・」
佐藤は自室のベッドの倒れ込み、お気に入りのクッションに顔を埋めた。
ピロン
「あっ、川崎さん・・」
スマホを手に取って、画面をタッチする。
連絡の内容読んで、一度画面を閉じた。
「私、なんで川崎さんのこといいなって思ったんだっけ?」
ふと先日の合コンの事を思い出す。
「川崎さんが私の事可愛いって言ってくれたんだ。そんなこと言われたの初めてで嬉しくて、そして・・」
“何をしたいか。じゃなくて、誰としたいかなんじゃない?”
先ほど、理香に言われた言葉が頭を過ぎった。
「誰としたいか・・か」
ふと脳内に矢巾の顔が浮かんできて、勢いよくブンブンと頭を振った。
「違う違う!川崎さんとしたいんだよ。だって、川崎さんは私の事可愛いって言ってくれたし。優しいし、面倒見がいいし、それに・・それに・・・」
“キスする想像が出来るかどうかかな・・”
「川崎さんとキスする想像出来るもん!!出来る・・もん」
佐藤はぎゅっと目を瞑り、脳内に川崎の顔を思い浮かべた。