第94章 【矢巾 秀】恋に恋して
「ごめん、待った?」
「ううん!急に呼び出してごめんね」
理香はおかわり自由のカフェオレを注文して、佐藤が座っていたテーブルにカップを置いた。
で?と、早速話を切り出しながら席に着いた理香。
佐藤はすでに残りが少なくなっていたコーラを一気に飲みこんだ。
「矢巾に・・矢巾がさ・・」
「何?告られた?」
佐藤はゲホゲホとむせ始め、理香は外を眺めながらカフェオレを口に含んだ。
「理香はさ・・その・・矢巾の気持ちを・・知って・・?」
「うん、知ってる。結構前から。だって、矢巾わかりやすいし」
「私・・全然気付かなかった。・・だって!だって、矢巾が私に合コンセッティングしてくれたんだよ?普通好きな子にそんな事しないよね?それにさ、矢巾陸上部の女の子とか、あと美術部の子とか可愛いって言ってたじゃん?超美人の!そうだ!そうだよ。矢巾は私が舞い上がってるからからかってそう言ったんだよ!そうに違いない!矢巾が私なんかを好きなわけないもん!!」
ね?と理香に同意を求めるが、理香は眉間にしわを寄せて持っていたカップをテーブルに置いた。
「ねぇ、私の親友の事、そんな風に言うのやめてよ」
いつも明るい理香が、一度も見せたことの無い表情で佐藤を見つめた。
佐藤は、うっ・・と身体を固めて、姿勢を正した。
「矢巾は・・あいつはチャラい所あるけど、本当は真面目で面倒見が良くて、それで・・それで・・優しい奴だよ?合コンをセッティングしたのだって、面倒見が良すぎるだけ。矢巾が頑張ってした告白を冗談だって片付けて欲しくない!」
理香はぐっと眉間にシワを寄せて、今にも泣き出しそうな顔で佐藤を見つめた。
「ごっ、ごめん。矢巾とは私なんかよりずっと前から友達だもんね。ごめ・・」
「そして、ひろかは私の大事な親友。可愛くて素直でいつも一生懸命なすごくいい子。だから、私の親友のひろかのこと、『私なんか』って言わないで!」
理香の言葉に顔を上げた佐藤。
理香の顔は先ほどの顔とは違って、優しく微笑んでいた。