第94章 【矢巾 秀】恋に恋して
放課後、矢巾が部活前に廊下を歩いていると、資料をたくさん持った佐藤が職員室から出てきた。
お互い目が合ったが、佐藤はプイっとそっぽを向いて教室へ向かって行った。
「おい!待てよ!」
矢巾は佐藤を追って教室に入ったが佐藤はそれでも無視をし続けて資料を整え始めた。
「俺は、お前のこと心配して言ってんだぞ?」
声を上げた矢巾に対して、佐藤は整えた資料をバンと机に叩きつけた。
「やっと恋が出来るかもしれないの!矢巾は応援してくれると思ってたのに、どうしてそんな事言うの?」
「どうしてって・・」
矢巾はグッと言葉を飲んだ。
そんな矢巾を見て、佐藤は自分の机に置いてあったカバンを取って教室を出ようとした。
「待てよ!!」
矢巾は佐藤の手首を掴んで引き寄せ、自分の腕の中に佐藤をしまい込んだ。
「ちょっ・・矢巾!?」
「俺は!!・・・俺はお前の事が好きなんだよ!!だから心配して・・いや、心配って言うか・・行かせたくないって思うんだよ!わりぃかよっ!!」
更に強く佐藤を抱きしめ、矢巾は、行くなよ。と耳元でささやいた。
「はっ・・離して!!わっ、私は矢巾の事・・そんな風に考えたことないっ!!」
佐藤は一瞬緩んだ矢巾の腕を振り払い教室を出て行った。
ガタン
「・・何やってんだよ、俺は・・・・」
矢巾は机に八つ当たりをし、しばらく誰もいない教室で頭を抱えた。
一方、佐藤は廊下を全速力で走った。少しでも早くその場から遠くへ行こうと。
息はあがって苦しいはずなのに一度も足を止める事なく校門まで走り続けた。
「矢巾が・・私を・・好き?・・・嘘だ、嘘嘘。絶対嘘だ・・・」
校門を出た所で力尽きたようにしゃがみこんで、嘘だ、嘘だ。と呪文のように何度も何度も唱えた。