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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第15章 そよめきなりしひたむきなり(木葉秋紀)


*



もしもみょうじなまえという内気な少女に、”木葉秋紀とはどのような人物か”と尋ねたならば、長い長い沈黙の後、よくわからない人、と頼りない声を聞くことができるだろう。


彼女は滅多なことがない限り、クラスの中ではスポットライトの当たらない場所に立っている。その薄暗がりから見える木葉の姿は、部活で忙しいはずなのに時間に追われている様子がなくて、何に対しても執着しない、捉えどころのない人物となって映し出される。まるでクラスメイトそれぞれが重い荷物を背負わされ、足場の悪い未来への道を歩いているその中を、一人だけ手ぶらで進んでいるかのような、そんな風変わりな人。

他者からの干渉を拒否しているかのような、自由きままな生き方を貫いているかのような、でもそこまで強固で崇高な意志なんて端から持ち合わせていないかのような。そんな核心の見えない印象を抱いているのはなまえだけではないらしく、同じクラスの男子も時折呟く。あいつみたいに、何にも縛られないでいたい。むしろセーラー服を着たあいつに縛られたい。いや逆に縛り上げたい、云々。(ちなみにこれらの不真面目な評価の中には、木葉秋紀なる男は3年3組という組織において、賑やかしとはまた違った主要な立ち位置に君臨している、という意味合いも含まれている。)


更にみょうじなまえの困惑には先週、バレーをしている木葉秋紀を見たことも一因していた。2つ隣のクラスの、たったひとりの友人に誘われるがまま体育館を訪れたその日の放課後、彼女はプレー中の木葉から終始目を離すことができなかったのだ。なぜならコートの中の彼の姿は、普段の教室で見せる姿と、全く、これっぽっちも変わっていなかったから。

つまり身のこなしが軽やかで、掴み所がなくて、狡猾というより、トリッキー。


例えば、やたら目立っていたあの1組の男子生徒。いろんな意味で有名人の木兎光太郎。スパイクを打つために跳ね上がるその派手な光景は、まさに全身運動、そのものである。しかし対して、木葉秋紀のジャンプがなまえの頭に植え付けた言葉は、浮游、の薄い二文字であった。



『あの背番号7番の人』

隣で見ていた友人が、木葉を指差して言っていた。『あの人、とても簡単そうにバレーをするのね』


その言葉を、なまえは今も忘れられないでいる。



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