第15章 そよめきなりしひたむきなり(木葉秋紀)
「秋紀、部活行くんー?」
近くに座っていた男子生徒が、気怠そうな様子で尋ねた。「そ、行く」と木葉は机の上に乗っていたエナメルバックを自身にかける。細い身体のラインに、重量感のある鞄。不釣り合い、アンバランス、不安定。そういった要素は時に、不思議な魅力の引き金となる。
「大変だな。さすが男バレ」
「これでもいちお、全国狙ってますからね」
「ご苦労様です」
「いえいえどうも」
「いってらー、秋紀」
別の男子が右手を突き出す。
人差し指と小指を立てて、残りの指の腹を合わせて、こんこん、と手遊びのきつねの形を作っていた。対して木葉も、真似して右手できつねを作る。
「いってきまー」
ちゅ、と2匹が軽い口づけ。げらげらと下品な笑いが男子たちから沸き起こり、女子生徒たちは意味ありげな目配せをし合う。唯一なまえだけが深刻そうな顔をしながら、しなやかに教室を出ていく背中を見送っていた。