第15章 そよめきなりしひたむきなり(木葉秋紀)
なぁ、この曲なんていうの、と前方に座る男子が小声で尋ねた。知らね、ともう1人。集中力切れちゃったから、赤点とったら秋紀のせいにしよっか。いいね、賛成。と密やかに交わされる女子の囁き。誰かのシャーペンが机でリズムをとる音。
肌触りの良い初夏の風が、木々の緑から窓へ、そしてギターを持つ彼の脇をすり抜けて、教室内へと流れ込んでくる。息抜きという言葉なんてついつい忘れがちななまえのつま先さえも、控えめに曲に合わせてテンポを刻もうとした、その時だった。
「木葉っ!こんのド阿呆!」
教室のドアと罵声が穏やかな午後の空気を引き裂いた。
音楽は止まり、その場にいた全員の視線が戸口へと向く。
「なぜに呑気にサボタージュしてるんですか!?」
立っていたのは隣のクラスの小見春樹。白いTシャツ姿の彼を目にして、へっ?と間の抜けた声が木葉の口から飛び出した。
「今日、練習あんの?」窓際の木葉が尋ねる。
「ある」と廊下の小見春樹。
「テスト休み期間なのに?」
「関係ナッシン!大会いつだと思ってんだよ」
2人を結ぶ線上に座るみょうじなまえは、口を少し開けたまま、上空を飛び交う会話に合わせて彼らの顔を見比べた。
「朝練だけじゃねーのかよ。放課後練もあるとか聞いてねーし」
「知ってろし。コーチガチ切れしてんし」
「うそん」
「や、嘘。ガチ切れは盛った」
「盛るなし」
「いいから早よ来いって。2時間しか体育館使えねーんだから」
「んん、わかった。今行くわ」
そしてギターは窓際に立て掛けられた。振動で共鳴する6本の弦。