第29章 隣の客は毛色が違う(天童覚)
「お互い恋人がいたのに、突然別れて2人がくっついた」
「天童はそういうの詳しいよなぁ」
しみじみと感心してしまう。「でも知らなかった。あいつらも3年だろ?全然噂になってないじゃん」
「性格良いから」
「あぁ~、周りから慕われてんのか」
「略奪でも応援されるタイプ」
「ますますムカつく」
ムッとして窓を睨む。僕たちのことなど気付きもしない。
「結婚式とか、大勢に祝われるんだろうな」
「家が火事で焼けても、周りから手助けしてもらえるんだろうね」
「入院してもお見舞いにきてもらえてさ」
「葬式では沢山の人が泣いてくれて」
「『彼は本当に良い友人でした(涙)』」
「『その言葉を聞いて、息子も浮かばれるでしょう……!』」
「お前はどのポジションなんだよ」
っつーか勝手に殺してしまった。
「結局、羨ましいだけなんだよね、俺ら」
覚ならぬ悟ったような口調の天童の目は死んでいた。そうだね、と僕も虚ろな気持ちで答える。「嫉妬をしたら、まず自分を見つめろって言うしね」
「誰の名言?」
「うちのばーちゃん」
「あら素敵」
そう、僕らは時々不安になる。僕らの幸せを、何人の人が祝福してくれるのだろうか。僕らの不幸に、心を痛めて泣いてくれる人がいるのだろうか。
「ムカつくとか言っちゃったけど」僕は素直に認めることにした。「本当は心底羨ましい」ばーちゃん、僕はこんな男になりました。「あんな風にちゅーしたい」
「おえっ」
「えずかないで天童」
「ってーか、あの2人長くない?」
「長い。どこで息継ぎしてるんだ」
「はげしい」
「はげしいね」
「あー」
「あー」
「あ、ちょ、」
「え、」
「あっ………」
ああああっ!?と僕らは一斉に叫んだ。光景が光景で光景だったからだった。
「猥褻物陳列罪じゃん!」声の限り叫んで立ち上がろうとする。が、身体がガクリと崩れた。
膝から下の感覚が無い。