第29章 隣の客は毛色が違う(天童覚)
「うっわ、」と僕はまた小声でドン引きした。「アベックがいるよ」
「カップル」と天童がやんわりと訂正をする。
「くそ腹立つ。天童、よく見つけたな。反吐が出そう」
「心の声が駄々漏れてんよ」
はぁ〜と天童は長いため息を吐く。「俺はこんな狭い部屋で男と2時間正座させられてるのに、同じ世界線時間軸にいちゃついているカップルがいる」
言うなよ、と僕は心の中で突っ込んだ。悲しくなちゃうじゃんか、と。
今日は青空の綺麗な日だった。その色に映える白い校舎で、こちらから丸見えとも知らず、窓際で小さな愛を育む男女。
あぁ、眩しい。イライラの極みだ。他人の幸せほど不愉快なものはない。
けれど、手持ち無沙汰の今、どうしても視線がそちらにいってしまうのも事実。
「信じられんね」と僕は呟く。
「品性を疑う」と天童も同意した。
「学校は勉学に励む場所だろ」
「家でやりなよ家で」
「家でやったらそれこそヤルだろ」
「ムリ」
「ばか」
「あほ」
「死ね」
「死ねは言いすぎ」
「すまん」
目の前の光景は僕らとはあまりにも世界がかけ離れすぎていた。罵倒の語彙すら不足するほどに。
「僕、男がEDになる呪いかけとく」
「じゃあ俺はあの女子が27歳で捨てられる呪いかける」
ぐぐぐぐ、と音が出そうなほど、僕たちは視線だけで呪いをかけた。この埃っぽい和室で。正座で。