第28章 嗚呼、手に余る我が人生(縁下力)
「それに、前の初詣の時、力のこと怒らせちゃったし」
「怒らせた?俺を?」
全くの初耳で、びっくりして慌てて尋ねた。「そうだったっけ?記憶にないけど」
「だって、ずっとダンマリだったじゃない。話しかけても、あぁ、とか、うん、くらいしか言わなくてさ」
「それは……」
少しの間、絶句して、「それは、頭がパンクしてたんだと思う」と言った後、ほら、と付け加える。「あの時、急に手を握られたから……」
「握ったの?私が?」
そうだったかしら?となまえは首を傾げた。「それで、力くんは照れちゃったのか」
「混乱したんだ、多分。ところでこの話はもう終わりでいい?」
「恥ずかしいの?」
「恥ずかしいよ。でも、お互い誤解が解けて良かったな」
「お互いとは?」となまえが尚も尋ねてきたけれど、聞こえていない振りをした。まさか、あの時、手を握ってきたことに何の意味もなかったなんて。というか本人はすっかり忘れているなんて!何だか無駄に損した気分だ。
それから、二人で気恥ずかしさを紛らわすように、何となく話をしながらダラダラと歩いた。そしてなまえの家が見えてきた時に、「というわけで、」と俺が口を開いたら「どういうわけで?」となまえが柔らかい動作で振り返る。
「俺も、勇気を出して、その、聞きたいことがあるんだけど」
「なに?聞くよ」
「すごく、今更なんだけど、」
「うん」
「さっきのチケットの映画、誰と観に行ったの」
「えぇ?」
「だって、」
俺は少しだけムッとした。「昨日の日付が入ってたぞ。12月25日。まさかクリスマスに一人で映画館に行ったわけじゃないだろ」
それを聞いて、なまえはむせたように笑い出した。「力、嫉妬してるの?」
「嫉妬じゃない。心配してるだけだって。その……お、男として?」
「なんで疑問形!」
すごく愉快そうに、なまえははしゃいだ。「ご心配ありがとう。でも、アンジーと観に行ったの」
「誰だよ、それ」
「ほら、4月の自己紹介で、セレブになってハリウッド俳優と結婚したいって言った……」
「いや、誰?」
「5組の女の子!」
あー、面白い。となまえが目尻を拭った。