第28章 嗚呼、手に余る我が人生(縁下力)
「わ、笑わないでね?」となまえが意を決したように念を押すので、「うん」と頷いた。(というか、それしかできないんだ)
「言うよ?」
「うん」
「あのですね、」
「うん」
「今更でアレなんですが……」
「うん」
そんな調子が耐えきれなかったのか、なまえが照れて、両手で頬を押さえて、ソッポを向いた。
それから、「その…………アレです」と、ほとんど独り言を呟くように、
「お誕生日、おめでと」
とぼそりと言った。
俺はしばらく、表情を隠しているなまえの耳をぽやっと見つめていたけれど、向こうがそれ以上何も言ってこないことにようやく気がついて、「へ?」と拍子抜けした。
「もしかして、それだけ?」
「それだけですケドも……」
依然ほっぺたに手を当てたなまえが、恨めしそうに振り返る。「今更恥ずかしいでしょうよ。面と向かって言うの」
「そうだけど、でも」
「ずっとね、今日中に言おう言おうと思ってたら夜になってたの、すんごい勇気出したの!わかる?」
乗りかかった船と言うべきか、ほとんど焼けっぱちになったなまえは、深夜にしてはやや乱暴だった。
「誕生日おめでとう!力!!!」
「うるっさいよ!」
しー!と人差し指を口元に当てて、けれど俺も半分以上は笑っていた。ふふ、と肩が勝手に揺れるのを止められないで、声を押し殺して笑って、やっとのことで、「ありがと」と言った。確かに俺も、最近のなまえの誕生日は、何となくスルーしていたところがあったのだ。
「私との長年の付き合いで今さらってわけですけども、でも、自分の誕生日をないがしろにされるって地味にダメージ食らうでしょ?」
「よく分かる。ありがとう。嬉しい」
「それから、」と、なまえは幾分スッキリしたような顔を見せた。「差し出がましいお願いですが、」
「うん?」
「年明けの初詣、また一緒に行けたらいいな、って」
「あぁ………最初からそのつもりだったけど」
「私もよ。でも、そろそろちゃんと確認する必要があると思って。力だって、毎年一緒に行ってるけど、『今回は好きな子と約束したから』なんて言い出しかねないところがあるし」
「そ、そうかな?」
そこも含めて、最初からそのつもりだったとはさすがに言えない。