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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第28章 嗚呼、手に余る我が人生(縁下力)




「映画を観て、私は今まで、タイミングを逃して言えなかった言葉がたくさんあるなって思ったの」

「何の映画を観たの?」


俺の質問に、なまえはポケットをがさごそやって、半券を取り出した。月明かりに目を凝らすと、昨日の日付の入ったその紙切れには、最近CMで流れている、少女漫画が原作の映画のタイトルが刻まれていた。「高校生らしかぬ」とは全く真逆で、まさに女子高生が選ぶのにピッタリな映画だ。


「ちょっと勇気を出せばできることでも、私はいつも逃げてきた」

だけど、となまえは小さな右手をまたポケットに戻す。「だけど、その小さな勇気の積み重ねが、大きく未来を変えるってことを学んだ。私は。映画で」


文法がおかしいその言い草に、何だかこれは、思った以上に大事な話をされるのかもしれない、と俺は少しドキッとして、ちょっとだけ背筋を伸ばした。

それから、「大きく未来を変えるって、例えば?」と聞いてみる。

「例えば」となまえは息を吸う。「将来の結婚する人が変わったり」

「ごめんねや、ありがとうの積み重ねで?」

「そう。朝学校で会った時、挨拶をするかしないかの選択が、放課後に一緒に帰るか帰らないかの違いになったりする」

「恋愛シミュレーションゲームみたいだな」


この感想は良くなかったようで、なまえは明らかに顔をしかめた。けれど、引っ込みのつかないところもあるのか「とにかく」と両手で握りこぶしを作ってみせた。


「私はこれから、大人になって後悔しないように、きちんと勇気を出すことにする」

「で、手始めに俺に何か言うために呼び出したってわけだ」


「う」と言葉に詰まったなまえを見てると、流行りの映画なんかに簡単に触発されちゃって、多分一週間後にはまたコロッと気が変わってるんだろうけど、そんな純粋なところが、どうも可愛いなぁと思えてしまった。


なんだか状況だけ並べると、俺がすごく余裕のあるように見えるかもしれない。けど、本当のところ、こんな時間に近所迷惑なんじゃないかってくらい心臓の音がバクバクしていて煩かったし、12月のくせに身体だけがカッとなっていて熱くて、正直な気持ちを書くと、今すぐ逃げ出して布団被って寝ちゃいたかった。すごくね。


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