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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第28章 嗚呼、手に余る我が人生(縁下力)



その後も、色々と努力はしたんだけれど、結局なまえは何も喋らなかった。ただの塩ラーメンをすごくゆっくりと食べるだけの女の子だった。本当に見事に一言も発してくれなかった。


不機嫌というよりは、何か考えごとをしている様子のなまえは、それでも店を出るときには必ず言ってる『ごちそうさまでした』すらやらなかったんだから、もしかしたら本当にただ事ではないのかも?と俺は徐々にハラハラしながら横で見つめていたのだけれど、暗い夜道を帰っている間、このまま家に着いて解散かなと心配し始めた頃になって突然、なまえが「私はね、」と声を出した。だから俺は、ホッとしたというよりもかなり驚いてビクッと肩が跳ねてしまった。



「私はね、毎日ちょっぴり後悔してる」


「後悔?」

俺は、あんまりジロジロ見ないように気をつけて尋ねた。「何を後悔するの」


「今日はこういうことがダメだったなとか、あの時あぁ言えば良かったなとか」


「へぇ」と、間抜けな返事しかできない。


「おはようとか、ありがとうとか、ごめんなさいとか、そういう簡単な一言も言えずに、寝る前に落ち込んでるんだ。私」

「誰でもそうだと思うけど」

「力もそうなの?」

「まぁ、近いものはある」


最初に頭の中に浮かんだのは、例のドはドーナッツのドの映画だった。今となっては立派な黒歴史である、なまえを守りたいなと思った日のこと(あの映画の青年は、結局どうなるんだっけ?)

その後に、今日の部活の練習を思い出した。相変わらず、身体は思うように動かない。自分の立場に相応しい言葉が口から出てこない。自分だけが、前に進めていない気がして、もどかしい。




「そっかぁ、」となまえはぼんやりと呟いた後、足を綺麗に揃えて立ち止まり、照れ臭そうに下を向いた。「一緒だね」


「うん?」

「昨日、映画観た」

「映画は良いよね」

「うん、思ったより良かった」


決まりの悪そうに、なまえは黒いショートブーツの先でコツンと地面を鳴らした。近所のラーメン屋に行くだけなのに、やけにヒールの高いのを履いてきている。
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