第28章 嗚呼、手に余る我が人生(縁下力)
街灯の下を並んで歩いている間、どういうわけか、なまえは頑なに沈黙を貫いていた。部活やテレビ番組みたいなどうでも良い世間話をする俺に対して、特に理由もないけど喋るのが億劫だと言わんばかりに目線と首だけで微妙に反応を示すだけだった。
これは相当面倒臭い事案かもしれない、と俺は少し身構えた。女心と秋の空なんて言うけれど、なまえの機嫌は本当にコロコロとよく変わるんだ。
例えば、この前は『新しいバッグが欲しい』と言い出した。
『私はこれから、淑やかな女性になろうと思う。だから落ち着いた色のバッグを買うの』
見て、こんな感じのよ、って雑誌を広げて、やたらと熱弁を振るってきた日があった。
でも次に会った時にはすっかり忘れていて、『全てのことが面倒くさい。死にたいわけじゃないけど、なんだか消えちゃいたい気分』とワンワン泣いていたりするんだ。もうこの世は終わり!って言わんばかりに泣いている。
流石に俺も困ってしまって、奢ってやるから元気出せよって金龍に連れて行くわけ。そしたらびっくりするくらいの量のラーメンをペロリと平らげてさ、『お腹が満たされても、心が満たされていない』ってケロっとした顔でしなだれかかってくるんだからもう本当に厄介なんだよ(わかると思うけど、弱ってる女の子に手を出すのって難易度がすごく高い。結局何もできないんだから...あー、死にたくなる)
そんであくる日になると、『バッグなんて、物が入れば何でも良いよね』ってお世辞にも淑やかとは言えない色合いの新品を、晴れ晴れとした顔で見せびらかしてきちゃったりする。
こんなことはしょっちゅうで、でも、色んな映画を観ていて思うんだけど、結局、どうも女子ってそういう生き物らしいんだ。
つまり、憧れの対象が頻繁に変わったり、わがままになったり、異常な食欲を見せたりワンワン泣いたりっていうことをしてしまうのは、珍しくも深刻な事態でもなんでもなく、ある意味人間としては当たり前というわけらしくて、そういうのを「可愛いなぁ」って笑いとばせる男が、大人でカッコいいっていうことらしい。俺からすれば、なんて理不尽な!と憤慨したくなるわけだけれど。