第28章 嗚呼、手に余る我が人生(縁下力)
『深夜にラーメンを食べに行ける関係っていうのは、すごく貴重だよね』
これはなまえが俺を言いくるめるためによく使ってくる決め台詞。それこそ「高校生らしからぬ発言」だけど、とにかく、俺はなまえのそういう言葉にすごく弱くて、例えば『今日はありがとう』とか『おやすみ』ってにっこり笑って言われただけで心臓が緩く締め上げられるような心地になる。最近はもう『力!』なんて名前を呼ばれるだけでぎゅっときてしまうから(一度心配になって狭心症の症状を調べたことがあるというのは秘密)、年々深刻になっていることは自分でもわかってるつもり。
通り道にあるみょうじ家のインターホンを鳴らすと、なまえはすぐに出てきた。外出から戻ってきたばかりなのだろうか、髪の毛を、女子たちがよくやってる、あの”くるりんぱ”ってやつにして、けれどいつも通りの手ぶら姿に、少なからずプレゼントを期待していた俺は少しだけしょぼんとなった。少しだけな。
どうも12月26日が誕生日っていうのは微妙なもので、冬休みっていうこともあって、割とないがしろにされちゃうことが多いんだ。
前日まではクリスマスムードで町中が散々浮かれていたのにさ、26日になった途端、みんなの頭の中は切り替わるらしい。さあ、おふざけはおしまい。年賀状はもう用意した?大掃除は?みたいな感じに。急に周りがスッと冷めてしまうから、本日の主役は苦笑するしかないってわけだ。