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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第28章 嗚呼、手に余る我が人生(縁下力)


そんな純粋だった縁下少年が無事に17歳を迎えた日の夜、なまえから電話がくる。つまり、ちょうど風呂上がりに自室に戻ったタイミングで、充電器に繋がれていた俺のスマホが鳴り出したわけ。


『ねぇ力、金龍に行かない?差し支えなければだけど』

ちょっと緊張したような声がスマホ越しに尋ねてきたから、釣られてこっちまで「うん?」と上ずってしまって、湯冷めかけてた身体が再び熱くなる。


金龍っていうのは、すぐ近所にある馴染み深いラーメン屋の名前で、要は夜食が食べたいんだけど、年頃の女子が一人でラーメンなんてみっともないからついて来てくれ、っていう要請なんだ(女子って一人で店に入るのをやたら嫌がるよな)、まぁこんな呼び出しは珍しくもないから、『もう晩飯食べたし、部活で疲れたし、明日も早いからごめん、寝るわ』なんて断ることも当然できる。でもそんなことしたら向こう一週間は口をきいてくれなくなるだろうし、やっぱり今日が12月26日ってこともあったから、「行くよ。すぐ行く」と俺は二つ返事でハンガーに掛かっていたコートを掴んだ。


部屋着の上から羽織ったコートにマフラーを巻く。財布を持って、部屋の電気を消す前に机の上のカレンダーを見た。特に予定なんて書き込んでいないけれど、今日から一週間後を数えたら新年で、仲直りついでにご機嫌伺いしながらの初詣なんてちょっと嫌だなと思ったわけなんだ。それから階段をそろそろと降りて、玄関の扉を開ける時になってようやく、初詣と言えば今年の初めは、参拝客の混雑の中でどさくさ紛れに手を繋がれたなと思い出してしまって、ワアッとなって思わず扉に盛大な頭突きをかました。だってあの時、手を握られて、俺は家に帰るまでに何をしたと思う?何もしなかったんだよ。手を握られたのに!




要するにつまり、俺は今日で17歳になりました。子供心に憧れた年齢になりました。だけど、この有様を見てどう思う?未だに自分はパッとしないし、親のお金でのんびり生きてる。そりゃ部活動は真剣にやっているにはいるけど、毎日がむしゃらに生きてますと胸を張って言えるわけじゃない。好きな子を守るなんて言う前に、好きだと伝えることすらできない男になりました。そのくせ夜中に呼び出されたらそわそわ迎えに行ってしまうんだからもうどうしようもない。怒りを込めて言いたいけど今夜はすごく冷えるよねホント。
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