第15章 そよめきなりしひたむきなり(木葉秋紀)
そこでようやく、なまえは木葉の左手に何か握られていることに気がついた。はいこれ、とまるで約束していた漫画を手渡すかのように差し出されたそれがすぐには認知できずに、まじまじと見つめてしまう。
「……何、これ」
「何って」
タンバリン、と木葉の目が細くなる。よく男友達から、笑ったとき前見えてるの?とからかわれている切れ長の瞳。美人だ、となまえが密かに思っている目。
「みょうじさん、叩いて」
「へっ?」
「他に誰もいないから」
「あ、え、タンバリンを?」
む、無理無理、と首を横に振る。「叩き方、知らない」
「知らなくてもノリっしょ、ノリ。カラオケでもやんでしょ?」
「カ、ラオケ……は、あんまり、」
「行かないの?じゃあ行こ。今日。これから」
「えっ!?っと、それ、は......」
なまえは口を閉じて僅かに後ずさった。腕の中の勉強道具を胸に強く押し当てる。はは、と木葉が軽く笑った。
「みょうじさんて、真面目なんスね」
彼がこてんと首を傾げると、金色の髪がサラリと動いて、隠れていた耳のピアスが覗く。なまえの顔がみるみる赤く染まっていった。
単にからかわれただけなのだ。カラオケも、タンバリンも。