第11章 気まぐれと笑って
「だ、誰っ!?」
「有栖ちん、黄瀬ちんに手とか降らなくていいし」
敦君が私の手を取って、無理矢理まいう棒を掴ませた。
「なにこれ、くれるの?」
「うん、あげるね。だから黄瀬ちんじゃなくて、俺にアイコンタクトしてよ。”お菓子なくなったから買ってきて”ってやるから」
「自分で買いにいきなさい! というか、下宿先の売店にある物限られているんだけど」
「そこは有栖ちんの鞄の中から……」
「ないからね!? お菓子とか全然持ってきてないからね!?」
「ちぇっ、けち」
いやいや、けちとかじゃなくて!
黄瀬にもう一度だけ視線を向けたけれど、今度はもう目が合うことはなかった。それに少なからず満足げな敦君は「お話しよう?」と練習をさぼる気満々だ。
「ちゃんと練習しないと、怒られちゃうよ?」
「え――……いや、だって面倒じゃん? だるいし」
「ほら、征十郎が見てるよ」
不敵な笑みを浮かべた征十郎は最高に怖かった。
身の危険を感じた敦君は、そそくさと練習に戻っていく。入れ違いで今度は征十郎がこちらへやってきた。