第43章 -花園-(赤司征十郎)
〜1月(3ヶ月前)〜
「またパーティーですか?」
突然部屋に来たと思ったら、
母が懇意にしている
ブランドの担当者の方までいて、
山盛りのドレスを並べ始めた。
「”また”とはなんですか!
今回のパーティーは
伊集院様の主催なのよ?
ご挨拶をするのは当然のことでしょう?
檜原コンツェルンの長女として、
明さんの婚約者として、
きちんとご挨拶なさい。」
はぁ…。
年末からいくつのパーティーに
参加させられただろう。
さすがにもう疲れてしまった。
「それに、今回はすみれには
重大な役目があるのよ。」
「え…?」
重大な役目ってまさか…
婚約の正式発表とか?
「ピアノを弾いてほしいそうなの。」
「ピアノ?でも…」
ピアノは好き。
でも、そういう
面倒くさそうなトコで弾くのは…
「ス○インウェイ?だったかしら?
それの限定モデルの
グランドピアノらしいのよ。
わざわざすみれのために
取り寄せてくださったのよ。」
母はドレスを
わたしの前にかざしながら、
簡単に言う。
「ス○インウェイ⁈」
「そうよ。
あら、これなんかいいんじゃない?」
母は今度はさっきとは
別のドレスをわたしにかざす。
ス○インウェイの限定モデル…
どんな音を奏でるのだろう…
「 はい。」
どんな曲が合うのだろう…
「あら?貴女には
珍しいタイプのものだけど。
貴女が気に入ったのならよかったわ。
ピアノも弾くし、
ロングのほうがいいわよね。」
「えっ⁈」
ピアノのことばかり考えていて、
上の空で返事をしていたわたしは、
ハッとして母を見つめた。
「じゃあ、弾く曲も
決めておきなさいね。」
母はそう言うと、
わたしの部屋を出て行った。
あぁ…ス○インウェイのピアノ…
わたしは伊集院家の前で弾くとか、
大勢の人の前で弾くとか、
そんなことはすっかり忘れ、
ただただ憧れのピアノの音色を
想像してうっとりしていた。
もちろん、上の空で返事をした
ドレスのことなんて見てもいなかった。