第41章 -海常-(黄瀬涼太)
笠松先輩は鬼の形相だったが、
当のすみれ先輩は、
ただただポカンとしているだけだった。
「幸…そんな…
飛び蹴りまでしなくても…」
「はっ⁈オマエ、黄瀬に…
あ…あんなことされていいのかよ⁈」
「いいわけじゃないけど、
黄瀬くんもふざけてたんだし…」
「ふざけてたら、
なんでもしていいのかよ⁈」
「そういうわけじゃないってばー。
黄瀬くんだって、変な感情が
あるわけじゃないんだから。」
笠松先輩とすみれ先輩の
噛み合わない会話がつづき、
笠松先輩はため息をついていた。
笠松先輩は、たぶん、
オレの気持ちに気付いている。
部活初日に”すみれっち先輩”と呼んだら、
「ふざけた名前で呼ぶな!」って、
飛び蹴りされたし。
今思うと初日から牽制されていた。
でも、すみれ先輩は、
オレの気持ちに
これっぽっちも気付いていない。
すみれ先輩は、
笠松先輩しか見ていないから。
「黄瀬くん、大丈夫?」
ほら、無警戒極まりない。
すみれ先輩は
オレに手を差し伸べてくれる。
「大丈夫っス☆」
オレは少し甘えて
すみれ先輩の手を取った。
「よかった♪
黄瀬くんも本気じゃないのにね。
ほんとにゴメンね。」
オレの胸がズキッと音を立てる。
「でも、そういうコトは、
ちゃんと好きなコにしなきゃダメだよ?」
「オ…オレは…」
キーンコーンカーンコーン♪
「あ!」
オレのことばを遮るように、
予鈴が鳴り、
すみれ先輩が慌てて時計を見る。
「黄瀬〜!オマエも早く着替えろよ。
プレゼントの山、
部室に置いといてもいいから。」
小堀先輩が声を掛けてくれた。
「マジっスか⁈助かりますー!」
「幸、1限の数学、ちゃんとやった?」
オレがロッカーから
荷物を出していると、
笠松先輩とすみれ先輩の
話し声が聞こえてくる。
「…HRのあと…み…くれ…」
「ん?なぁに♪?」
「…‼︎HRのあと見せてくれ‼︎
っつったんだよ!」
「…♪いいよ♪」
オレの入る余地はないと思わせる
すみれ先輩の笑顔にまた
胸がズキッと痛む。
それでもオレは笠松先輩の彼女…
すみれ先輩が好き。