第3章 日常
「・・・、・・・亜弥!」
「・・・!」
「あ!やっと起きた~!もー、心配したんだからね!?」
視界に入ったのはこの家の嫡子、リクオだった。
「リクオ・・・様・・・?」
「それ以外見える?」
「・・・いえ、見えません」
そう言うとリクオは笑った。
年相応に、とても妖怪とは思えない笑顔だった。
「帰ってきたら亜弥ってば魘されながら寝てたんだからびっくりしたよ」
「すみません・・・。夢見が悪くて」
「へ~・・・どんな夢?」
リクオにとって純粋な質問だったが、亜弥にとっては息を呑ませるには十分だった。
それは教育上にも、自らの精神衛生上にも悪く、できれば思い出したくない。更に言えば口にも出したくない。そんな夢だった。
「・・・あまり・・・覚えてません」
とだけ振り絞る様な声で言った。
「ふ~ん?」
「リクオ様は今日、どうでしたか?」
苦し紛れに、話題を変えようと聞いた。
普段ならこう聞くと嬉々と話すリクオだが、今日は違った。
段々と顔に暗さが滲み、とうとう俯いてしまった。
なにか地雷を踏んだのか。亜弥は慌ててフォローしようとあわあわしているとリクオが「・・・今日、」と話し始めた。
「学校で発表会があったんだ・・・」
「発表会、・・・ですか?」
「うん・・・自由研究の発表会。
清継君たちの班が璞神社の・・・妖怪伝説調べたんだ・・・」
璞神社。奴良組のシマにある神社だ。
子供を喰うとひと昔前まで騒がせていた妖怪を、陰陽師により退治、鎮社したというのが通説だ。
だが実際は単な流行病で、抵抗力のない子供ばかりかかっていた。
困った人々がなけなしの財力で璞神社を建てていた時期にその流行病も徐々に治まり、完成した頃にはそれは完全に無くなっていた。
というのが真実だ。
「清継君が言うには・・・妖怪は悪者ばっかりで・・・皆に・・・」
「・・・」
「・・・皆に、嫌われてるんだって」
リクオの目には、涙が溜まっていた。
亜弥はどうしてよいかわからないまま、頭を撫でた。