第5章 さらば、もう一人の友よ
「(魔力が…アニマに…)」
『どうしたぁ? 魔力がねぇと怖ぇかぁ?
そうだよなぁ! 魔法は力だ!!』
「やめろーっ!」
己の魔法が使えないという事に驚きに目を見開いているジェラールの前で、アギトは拳に漆黒の炎を纏い、それを力いっぱい足元の建物に打ち付ける。
強力な一撃を喰らった建物は大きな罅を入れて崩れ、ガラガラと砕け散って行く。
「きゃー」
「何だこの破壊力は!?」
「魔法…!?」
「アギトさんやり過ぎですよー!」
「良いんだよ これで強大な魔力を持つ<悪>に魔力を持たない<英雄>が立ち向かう構図になるんだ」
『ひひっ』
「…もうよせ、アギト…」
不安そうな顔をするウェンディと笑みを浮かべるガジルに見守られ、遂に相対するアギトとジェラール。
張り詰めた空気が二人の間を流れる。
「私は英雄にはなれないし、お前も倒れたフリなどこの群衆には通じんぞ…」
『フリ? じゃあ俺を倒してみろよ!!』
「ぐっ!?」
まるで説得をする様なジェラールの言葉に聞く耳を持たず、アギトは突然地を蹴り、その拳でジェラールを思いっきり殴り付けた。
手加減も何もない、予想だにしていなかった本気の一撃に成す術なく背中から倒れ込むジェラールに周りを囲む群衆から悲鳴が上がる。
「王子!」
「何て狂暴な奴なんだ…!?」
「く…っ」
殴られた衝撃で血が滲む口を拭い、ジェラールは体を起してもう片方の拳をギュッと握る。
そしてそのまま地を蹴り、アギト目掛けて拳を繰り出した。
「茶番だ…! こんな事で民を一つになど…出来るものかーっ!」
しかしそれを簡単に片手で受け止め、更に挑発する。
『本気で来いよ』
「…ぬおおっ!」
『がっ!』
半ば自棄になったジェラールは腰を捻り、アギトの頬へと回し蹴りを放った。
途端、群衆から上がる歓声。
「おおっ!」
「良いぞ王子ー!」
「やっつけろー!」
「お願い! 頑張って!」
「!?」
『へへっ、ギャラリーもノッて来たなぁ!』
「馬鹿者! やらせなんだから今ので倒れておけ!」
『やなこった!!』
「ぐあっ!」
容赦なく腹部に入り込むアギトの拳にジェラールの体が凭れ掛かる様に折れる。
負けじとジェラールもアギトに殴りかかる。