第5章 さらば、もう一人の友よ
<side out>
城内、アニマを作り出す部屋。
そこには今現在もジェラールとリリーの姿があった。
「ま…まさか本当にやってしまうとは…」
エドラスにあった魔力が空へ昇っていく様子を、今でも信じられないといった様子で見ていたリリー。
「確かにこれでしばらくは戦争は起きんだろうが…しかし…」
「わかっている」
国民はみんな混乱している。
そう続ける前にジェラールは口を開いた。
この世界、特に王都で魔力とはあって当たり前のものだった。
料理をするのには火のラクリマ、乗り物を動かすには風のラクリマを使っていたように。
それが突然使えなくなったのだから混乱するのは当たり前である。
「変化する世界に素早く順応出来る人間はそういない
だからこそ新しい指導者が必要となる
新しい世界の新しい王
不安に脅える民をまとめ、皆を幸せに導く新たな王が」
「成程、それを王子が…」
「いや…私ではない この世界と共に歩んでこなかった私には無理だ
そしてその権利も無い
混乱した群衆をまとめるには<悪役>と<英雄>が必要なのだ」
「<悪役>と<英雄>?」
「この世界を混乱に陥れた悪を晒し、処刑する者こそ英雄となり、その英雄は民を一つにまとめ、王になる」
そう言いながらゆっくりと振り向いてリリーと対峙するジェラール。
その目は未だに何かを決意したような強い光を宿している。
リリーの頬を嫌な汗が伝う。
「そ…その悪と英雄とは誰なんです?」
「もう気付いているだろう?」
気付いていた。
出来れば気付きたくなかった。
自分の勘違いだと言って欲しかった。
しかしジェラールはリリーに嫌な予想を肯定する言葉を続けた。
「エドラス王に反旗を翻し、世界の魔力を奪った私こそが<悪>」
「…!?」
「種族間の誤解と偏見を調和出来る君こそが<英雄>に相応しい」
ジェラールは言葉を続けた。
「世界を滅ぼした私を君が処刑するんだ
そして君がこの世界の王になれ」