第11章 あったかい(北城猛)
私がコーヒーのマグカップを2個持って、北城くんの部屋に戻ると、彼はもうシュークリームにパクついてる。
「もぉ〜、コーヒー持ってくるまで待っててくれたらいいのに」
私は唇をとがらせて文句を言う。
「ん? それは食後のコーヒーだろ?」
「一緒に食べたかったの!」
北城くんはそんな私の様子を見て、一瞬ふふっと優しく笑う。
そして、テレビゲームの画面にすぐ目を戻す。
私はそんな彼の表情は絶対見逃さない。ふふっ。
「あっ! とろりんカスタードがこぼれる! 愛! リモコン持て!」
彼がシューからこぼれそうなクリームと格闘しながら、ゲームのリモコンを私に託す。
「まかせて!」
私はコマンドを選択する。
「あっ、バカ! そっちじゃないだろ」
「これでいいんだって」
「おい、なんで魔導師にそんなこと…返せっ!」
残りのシュークリームを口に放り込んだ彼が、後ろからリモコンを取り上げる。
そして、コマンドを選択し直し、入力する。
「ふぅ…やれやれ…。
わっ…! 何、近くに寄ってきてるんだ、ゴラァ」
私を背後から抱きしめるみたいな姿勢になってるのに気付いた彼が声をあげる。
「寄ってきたのは、北城くんでしょ?」
私はちょっと振り向いて、彼の顔を見上げる。
「うっ…それはオマエが変なコマンドを入れるから…」
「わたしはいいよ。このままで…」
そう言って、私は彼の身体にもたれかかる。
「なっ…!」
北城くんの身体、大きくてあったかい…。
私はそっと目を閉じる。
彼の顔は見ないであげる。
きっと赤くなってるから。
「じゃ…邪魔すんなよ!」
しばらく黙った後、彼はやっと口を開き、リモコンを再び動かし、ゲームに戻る。
コーヒー冷めちゃうなぁ…。
でも、ここがあったかいから…ずっとここにいたいな。
fin