第6章 夏祭り(芹澤悠吏)
なんか多分、ナンパの件から変に意識しちゃって上手く話せないし、先輩の顔を長く見れない。
せっかくの夏祭りデートなのに…。
「愛ぽん、いつもより元気ないね。もしかして具合悪い? もう帰る?」
夜店を見てまわってるとき、先輩に尋ねられる。
やだ…帰りたくない…。
ちょっと涙目になる。
私は涙をこらえて言う。
「帰りたくないです…」
「え…」
先輩がちょっと驚いた様子で私を見る。
「わたし…上手くしゃべれないし…舞い上がって変なことしちゃったりして恥ずかしいけど…。
一緒にいたいんです。先輩と…」
私の話を聞いた先輩が、私の手をそっと握る。
そして言う。
「じゃあ…もう少し一緒にいよう」
私は先輩の顔を見上げる。
先輩、背が高いから。
先輩は私の顔を見て優しく微笑む。
私もちょっと微笑み返す。
上手く笑えたかどうか自信ないけど。
境内の近くで立ち止まる。
この辺は夜店がなくて少し静か。
手を繋いだまま先輩と向かい合う。
「ボクも同じなんだ」
「…?」
先輩が話し出す。
私はちょっと首を傾げる。
「愛ぽんといると楽しくて…
つい舞い上がって変なこと口走ったり、したりして、恥ずかしくて…
わぁ〜ってなるけど…
愛ぽんと一緒にいたいんだ」
先輩が少しずつ、ゆっくり話す。
ホントに…?
「でもボクは…やっぱり恥ずかしくて…いつもごまかしたりしてたけど…。
愛ぽんはすごいね。
自分のことをそういうふうに正直に言えるなんて。
ボクは愛ぽんのそういうところが好きなんだ」
好き…?
そういうところが?
そういうところだけ?
「ううん。ボクもちゃんと正直に言うね。
愛ぽん…。キミのことが好きだ」
先輩…。
先輩が私の目を見て真剣に…。
私はすごく恥ずかしくなって、うつむきたいけど、どうしても目が離せない。
先輩がちょっと微笑む。
「大好きだよ。ボクと付き合って。
返事は…今、聞かせてくれる?」
fin