第1章 82回目の高校2年生
また同じ1年間が来る....
漆黒の髪を少し長めに伸ばした男の子が誰もいない体育館にいた。
彼は真っ黒なジャージを着ている。
何故か壁と向き合っていた。
両手には黄・青・白の3色のバレーボールがあった。
彼は手元のボールをじっと見つめていた。
俯くように見ていたので、目に少し掛かる前髪が一層長くなり、彼の目を隠した。
体育館に暖かい風が入ってきた。
その風が彼の前髪を少し揺らした。
その時微かに見えた彼の目には色がなかった。
突然彼は自分の歯で唇を噛み締め、ボールを思いっきり床に叩きつけた。
床に跳ね返されたボールは壁に叩きつけられた。
高く飛んだボールは俯いている彼を飛び越えて、もう一度床でバウンドしてから少し転がり、やがて止まった。
また春の風が体育館を吹き抜けて行った。
その風は彼が着ているジャージを揺らした。
ジャージの背には白い文字で大きく
"烏野高校 排球部"
と書かれていた。
*****
彼ーーー吉川颯斗(よしかわはやと)は明日の入学式の準備のため、第一体育館でパイプ椅子を並べていた。
体育館には2年1組と2組の総勢78人いた。
「なぁ、颯斗ぉ」
後ろから聞き慣れた声がした。
坊主頭の田中龍之介だった。
「なんだ、りゅう」
吉川はパイプ椅子を並べながら答えた。
その声は少し冷たくも感じられる。
「いや、なんか今日様子がおかしいなって思って」
吉川は動かしていた手を止めた。
お前になにがわかる........
「べつに、普通だよ」
そう言い、再び手を動かし始めた。
「そ、そうか。ならいいんだ。なんかあったら言えよ」
「あぁ」
田中は腑に落ちない顔をし、自分の持ち場に戻って行った。
田中とは同じクラスで同じバレーボール部。
いつの間にか吉川の手は止まっていた。
周りからの声が遠くから聞こえる。