第1章 鬼灯の冷徹 / アイスクリーム
まずは初日。加々知はどこからか入手した情報を元に、「東南植物エデン」と言う観光地へ向かった。普段は南国に生息する植物を観賞する場所なのだが、加々知が沖縄に到着した日には特別なイベントを設けていたらしい。通常1,500円と高めな入園料も午後六時から無料になり、地元の青年会が沖縄伝統の踊りを披露するお祭り騒ぎとなった。
島への到着は午後四時。どこか遊びに行くには中途半端な時間だと思っていた加々知にとって、何とも嬉しいイベントだ。一旦、荷物を宿泊先のペンションに置いてイベント会場に向かえば、ちょうど伝統の踊りであるエイサーが始まる所だった。初めて生で目にする踊りは、とても陽気で熱い。想像以上に活気溢れる現場に感心し、カメラのシャッターを押しまくったのは言うまでもない。たった数時間のイベントではあったが、初日の割りには満足度の高い日となった。
二日目は観光地を避け、ローカルな甘味処を食べ歩く。元々甘党な加々知にとって、これは最も外せない行事である。商店街はもちろん、その地域に在住する者ならば必ず知っている喫茶店にも足を運んだ。試食も含め、その日で食したお菓子は数えきれない。サーターアンダギーを始め、黒糖味のかりんとう、様々な種類のちんすこう、紅芋のタルト、マンゴーの果肉入りプリン、シークァーサー味のゼリー、地域限定のポーポー……。とにかく、丈夫な体である鬼神でなければ食べきれないほどの量が、加々知の腹に収まった。だが、めぼしい甘味は他にもあると言う。彼の事だ。この旅の間、全てのお菓子を制覇するのは間違いないだろう。
ただ、それは三日目の今日には叶わない夢だった。何故ならば、気象庁が「特別警報」を鳴らすほどの大型台風が、現在進行形で直撃しているからである。