第1章 鬼灯の冷徹 / アイスクリーム
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コテージ調のデザインが施されている、洒落たペンションの中にあるカフェ。そこに加々知は居た。
洋風な外観を持つカフェでは、白を基調としたインテリアに溢れていた。テーブルから椅子、天井に設置しているファンまでも徹底した白のモダンな造りである。だが床は温かみのあるウッドフローリングで、壁も彩りの良い絵画で埋め尽くされ、決して殺風景ではない。女性の旅行客には受けが良さそうだ。
そんないくつもあるテーブル席の一つに、加々知は腰をかけている。部屋の一角にある、セルフサービスで飲める無料の紅茶を少しずつ口にしながら、彼はテラス戸の向こう側を観察していた。
轟々と吹き荒れる風の音。
密集して霧のように濃い雨。
たまに鳴り響く雷の轟音。
飛ばされて来たのか、いつの間にかテラス戸に張り付く千切れた葉っぱ。
分厚い雲をもろともせず、意外にも明るく届く太陽光。
カーテンを閉めていない状態では、それらの全てが伺えた。予測不可能な自然が生み出す光景は、加々知の意識を占める。長い時間を鬼神として過ごしてきたが、彼にとって「台風直撃」と言う状況は初めてだった。
試しに瞳を閉じて耳を澄ませば、時折だが風の方向が変わるのが分かる。先ほどまでは西側の窓ガラスを叩き付けていた雨は、今度は北側のテラス戸から音を鳴らしながら降っていたからだ。
ぱらぱらぱら、ぱらぱらぱら、ぱらぱらら。
想像を膨らすとその雨音は、まるで両手いっぱいの米を地面に落としたかのような豪快さがあった。その場で実際の音を聞かぬ限り、思いつく事のなかった例えだろう。そう考えると、この経験がほんの少し有意義なような気がして来た。
そんな他愛ない思考を隅に置き、加々知は再び外を見る。
…………正直、見飽きていた。