第1章 髪垂れた未来を
胸の内にそんな感情を抱きながら、結衣はゆっくりと沖田の胸に顔を埋めた。沖田も彼女の気持ちに応えるように、何度も彼女の柔らかい髪を撫でる。
「俺もでさァ。情けねェが白詛にかかっちまって、最期の挨拶でもしようかと此処にきたんだが……二人一緒なら安心でィ」
「そうね、安心ね」
幸せなひと時。そう表現しても決して大げさではないほど、二人はとてつもない安らぎを感じていた。だが、それは一瞬にして終止符を打たれる。ゲホゲホッと、突然の咳に見舞われた結衣は苦しそうにしゃがみ込んだ。
両手で口を塞ぎ、渇いた咳を繰り返す結衣の背中を、沖田は共に膝をついて擦る。「早く治まってくれ」と念じるものの、その願いは虚しく、咳は繰り返された。そして後に「コポッ」と嫌な水音を立て咳は止む。
吐血だった。
結衣の両手にはべっとりと血が付き、重力に逆らわずにつーっと彼女の腕を垂れる。血の出所である口元にも溶けた口紅のように、血液と混じった真っ赤な唾液が零れる。その光景に寒気と恐怖が走り、沖田はすかさず結いを抱えて店の奥の戸へ向かった。
店と家が合併したこの建物は、一階が美容室として機能しており、店奥の戸を潜れば二階へ繋がる階段がある。それを駆け上がれば結衣の住処だ。キッチンや風呂場はもちろん、彼女らしく可愛いく飾られたリビングと寝室もあった。
沖田は数年ぶりとなる家に躊躇なく進み、目的地である結衣の寝室に辿り着く。可愛らしいぬいぐるみで飾られた部屋は、これまた彼女らしく相変わらずだった。
部屋の角に合わせて配置されているベッドの布団上にそっと結衣を寝かせれば、沖田は早足でキッチンへと向かった。適当なお盆を見つけだし、キッチンを漁るように欲しいものを探しまわる。