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髪垂れた未来を(銀魂:沖田夢)

第1章 髪垂れた未来を


それだけでも沖田にしてみれば上出来かもしれない。以前は真選組の仕事など放り投げ、自由奔放に町で遊ぶの日課だったのだ。三日も続いた、しかも何の成果も得られなかった捜索活動に参加しているだけマシだ。

しかし集中力の限界がとうとう訪れてしまったのだろう。空に沈み始めた太陽を見ながら、沖田の意欲は完全に消えて行った。このまま居眠りでもしようか、と脳裏に一瞬の案が浮かんだが、何故かそれを実行する気にはなれないでいる。むしろ逆に、赤みと青みを帯びた空を眺めれば眺めるほど、彼の胸には数年ぶりの熱い願望が蘇った。

懐かしい人物に会いたくなったのだ。

ならば思い立ったが吉日。土方の目を盗んでその場を抜け出し、沖田が向かって行ったのはかぶき町。随分と久しい繁華街を通るが、やはり記憶とは別物である。人で溢れかえっていた表通りは猫一匹の気配もなく、華やかなネオンを放っていた数々の看板は光を失っていた。廃墟のように荒らされた建物も少なくない。

そんな中、スナックお登勢は昔と変わらず佇んでいる。年季は入っているが、歩く人々を受け入れる器量の大きさは何もかも同じだった。見慣れた姿のままでいるスナックの脇を通り、沖田は裏通りへと歩みを進めて行く。

そう長くもない狭い路地を抜け出せば、スナックお登勢の背向かいの店が視界に入る。すっかり錆びれてしまった「髪結床」と描かれている看板。木製の板に西洋のデザインを意識したのか、ポップな色で大きく描かれていたソレは、今では擦れて読みづらくなっている。そんな看板を確認すれば、沖田は店の中へと続くドアに手を添えた。

コロンゴロンと、昔よりも鈍い音のベルを鳴らしながらドアを開き、中に入る。最近は掃除がされていないのか、ドアの開け閉めだけで簡単に埃が舞い上がった。電気は着いておらず、窓から差し込む柔らかい夕日の明かりの中で、埃はゆらゆらと蠢く。そんな埃を遠ざけるように軽く手を扇ぎながら店を見回せば、殺風景な部屋に沖田は少し驚いた。
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