第1章 髪垂れた未来を
神楽の長い髪を活かしたスタイルにするため、結衣は今日の髪型をハーフアップに選んだ。アップにする横の髪は緩やかに編み込み、美しさを際立たせる。ヘアピンなどを差し込んで固定すれば、あとは可愛らしい簪を添えて完成だ。簡単だが見栄えのする髪型をセットし終えれば、神楽の肩をそっと叩く。それを感じるや否や、神楽は部屋を飛び出して風呂場へと飛んで行った。己の姿がよく見える鏡の前で髪型を堪能しているのだろう。
少し前のめりにならないと出来ない作業に疲れを覚えたが、はしゃぐ神楽に一安心し、ソファに深く座り直して一息つく。しばらくは戻ってこないであろう神楽を待つため、ゆっくりと腹を撫でながら時間が進むのを待機した。
だが退屈する間もなく、部屋奥の襖がスッと開いた。そこには、珍しく早めに寝室から出て来た銀時の姿が。
普段は神楽の髪を整えたら、神楽が結衣を家まで送ってくれている。朝早く結衣は万事屋に訪れるだけに、昼過ぎまで寝る事の多い銀時とこの時間に会う機会は少なかったりする。なので甚平で現れた彼が久しく、親しみを含めた笑顔で結衣は挨拶をした。
「お邪魔してます、銀さん」
「おーう。また一段とデケー腹になったなぁ、オイ」
「ふふふ。おかげさまで、元気に育っているわ」
しぱしぱと眠気の抜けない瞬きを繰り返しながらも、銀時は結衣の目の前にしゃがみ込んで許可も聞かずに腹を撫でる。それでも悪い気のしない結衣は、彼の好きにさせた。銀時も銀時で気を良くし、そのまま大きく膨れた結衣の腹に話しかける。
「しっかし、オメーも博打みたいな親元に来たなァ。性格がドSになんのか、平凡になんのか、分かりゃあしねェ。ま、顔が奇麗になんのは保証されてっか。羨ましいなコノヤロー」
相変わらずダラけた態度の語り口。聞き慣れているはずの低い声なのだが、何故か彼の様子をみて、ふと胸にこみ上げるものが結衣にはあった。