第1章 髪垂れた未来を
「あと、三週間ぐれーで顔が見れんだっけか? 時間なんてあっという間だかんな、かーちゃんから出てくる準備しとけよー」
「銀さん」
「んー?」
「ありがとう」
「……え、何? 何で急に感謝されてんの、俺?」
「分からない…………でも、何でだろう。今ある幸せが、貴方のおかげのような気がして」
涙が零れる結衣。突然ほろほろと落ちる涙のしずくに戸惑いながらも、銀時は頭の後ろポリポリと掻いた。
「ったく、俺ァ何もしてねーよ。妊娠中で情緒不安定なだけじゃねェの?」
「ふふっ、夫にも同じ事を言われました。今朝も、目が覚めた時に泣いてたんです」
「ま、心配しなくても、そのうち落ち着くだろ」
ほれ、と神楽が移動させたテーブルに置かれたティッシュ箱を渡される。またもや緩んでしまった涙腺に恥ずかしさを覚えながらも、結衣は遠慮なくティッシュを箱ごと受け取った。
ティッシュを一枚だけとって目元を拭えば、ちょうど鏡を見るのに満足した神楽が戻って来た。何ともタイミングの悪い。案の定、銀時が何かしでかして結衣を泣かせたと勘違いした神楽は、遠慮無用の蹴りを一発入れた。
壁にめり込むように飛ばされた銀時を皮切りに、万事屋特有の嵐のような一日が始まる。結衣はそれを笑い声をあげて見届けた。