第1章 髪垂れた未来を
会話も軽く交えた食事を終えれば、時計がちょうどいい時間を指していた。使い終わった皿などを流しまで持って行こうとする結衣の手から食器を奪い取り、総悟はシャツの袖をまくり上げる。暗に出かける準備を促す彼に甘え、結衣は寝室に戻って髪結いの道具をまとめた箱を取りに行く。
道具と言っても、簡易的なプラスチックボックスに色々な種類の櫛、鋏、ヘアピン、髪紐、簪、そして手のひらサイズのヘアスプレーが入っているだけだった。大掛かりな髪型は出来ないが、ちょっとしたお洒落感を出すのには十分な道具だ。去年まではドライヤーや髪を巻くためのアイロンなども持ち歩いていたが、重い物を運ぶ事を控えている結衣はそれらを省いて持ち歩く。
中に全てが揃っているのを数えて確認し、キッチンに戻る。そこには手早く食器洗いを済ませた総悟が、刀を腰に差して制服の黒い上着を身に纏っている所だった。
目で会話するように支度が終えたのを視線で伝え、二人は寄り添うように家を出る。その際、またもや総悟は過保護にも道具箱を結衣の手から持ち去った。右手で箱を持ち、左手は結衣の腰を支えるように添える。結衣も服越しに総悟の熱を感じながら、同じく左手で総悟の手に重ねた。
男と女の差があるだけに、結衣の小さな手では総悟の手を覆いきれない。そんな彼女の手から覗く総悟の薬指には、キラリと輝く銀色の指輪が覗き出す。その輝きと同調するように、結衣の指輪も共に光った。
そんな二人は家を出たのち、スナックお登勢へと続く脇道を通る。表通りまでは進まず、そのまま万事屋へ繋がる階段を一段一段と上って行った。
上がりきった所でベルを鳴らせば、バタバタと元気の良い足音が中から聞こえてくる。勢いよくガラガラと開いた戸からは、「待ってました!」とばかりに輝く笑顔の神楽が迎える。その目の冴えた表情とキチッと着たチャイナドレスとは裏腹に、彼女の髪は寝起き特有の鶏冠状態。あちらこちらに跳ね返る髪はどことなく面白い。