第5章 《ダイヤのA》好きになってはいけない
《御幸一也side》
どうしよう…今はそれだけが頭の中でグルグル渦巻いていた。
「おーい、御幸ー」
「…なんだよ、倉持」
「なんで睨んでんだよ、ノート提出だぞ」
さっきの授業でノート提出しろと先生に言われていたのを思い出し、慌ててノートを取り出す。
「誰に提出すんの?」
「篠崎」
「マジか…」
「なんでげんなりすんだよ」
その理由を倉持は知らないだろう。俺が篠崎を好きになり、だが、篠崎には彼氏がいると言うことを。
「あっ」
「あ…」
図書室でバッタリ篠崎と会ってしまった。向こうは笑顔で話し掛けてきた。
「珍しいね、御幸くんが図書室にくるのー部活は?」
「今日は休み」
「そっか」
まともに会話が続かない。いつもなら外面生かして普通に喋るのに。篠崎の前だと外面すら役に立たない。
「そうだ!御幸くんにちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
そう言われて篠崎は鞄から数学の教科書とノートを取り出した。それを見て察しがついた。
「今日のとこまだ理解出来てなくて…教えて欲しいんだけど」
「今日のは難しかったもんなーどこ?」
「えーっと…」
パラパラと教科書を捲り、目的のページに辿り着いたのかそこで止めた。関数の極限値のページだ。
「あーここは…」
隣合って座り、篠崎が理解するまで教えた。それだけ側にいたいと思ったのかもしれない。相手は彼氏持ちなのに。
「ありがとうっ御幸くん!これですっきりしたよー!」
「そりゃ良かった」
「御幸くん、頭いいし、かっこいいし、料理も出来るんだって?凄いよねっ」
そんなに褒めるな、俺を。余計に好きになってしまう。
「まあな、てか篠崎、こんなとこ彼氏に見つかったらマズいんじゃないのか?」
「あー彼氏は別の学校の人だから大丈夫だよっ」
「へぇー」
自分が予想していたよりも薄い反応で正直、びっくりした。かれこれ、数時間は勉強を教えていたが、流石に外が暗くなってきたのに気付き、立ち上がる。
「そろそろ、帰らなきゃじゃないのか?」
「あっもうこんな暗くなってる!ありがとう、御幸くん!また明日ね!」
教科書やノートを鞄にしまい、笑顔で図書室を出て行こうとする篠崎を思わず、腕を掴んで引き止めてしまった。
「御幸くん?」
「あ…悪い」