第57章 The calm before the storm.
日向がフェイトをした
今まで見てきて、彼が“エース”に憧れを抱くのは少なくともスパイクを決めた時のあの、高揚感と手の感触、それが理由だろうと思っていた
空中でボールに触れられる瞬間はコンマ数秒
そんな僅かな時間、スパイクを撃ちこめば手にボールの芯を捉える感触が後からじわりじわりと湧いてくる
フェイントは、ボールを軟打し威力を弱くする
つまり、掌はボールをポンッと押し出す感覚だ
後からくるあの感触はあまりない
が、私もフェイントの快感は知っている
スパイクを打ち込まれると思い込んでる敵選手らは当然、やや後ろで構える
つまりネット際はがら空きの無防備
そこへ、フェイント―
不意を突かれた攻撃に、敵選手は前へ滑りこんでくる
手を伸ばし、ボールを拾うとフライング
惜しくも届かず、床に落とされたボール
悔しそうな顔を一瞬した後、私よりも上にあった目線の選手が、自分を見上げる瞬間―
ぞくりと駆け巡る得もいえぬ快感―
日向
「………!」
葵
「………一番弱いから学ぶことが多い、か」