第3章 私の弟を紹介します
瞼の裏が眩しくて目を開けたーーー。
体が浮く感覚と交互に視界に入ってくる地面と太陽。
そのままボーっとする頭で状態をキープして数十秒…頭が覚醒すると同時に両手に力を入れてグッと足を伸ばした。
砂埃の上がる足元を見て動きが治まっているのを確認すると、詰めていた息を吐いてゆっくりとブランコから立ち上がった。
その場で周りを見渡せば、木々に色とりどりの花、芝と所々に砂地…と自然が沢山ある場所の様だった。
そこにポツンと無造作に置かれたブランコは、両親と行った家から少し離れた公園にあったモノに似ていた。
『ファブール』
呼ばれた名前に反射的に振り向けば、両親が傘を持って立っていた。
『探したのよ、あんまり心配かけちゃだめよ』
不思議な”声”だった。
屈み込んで私に笑いかける母の口は動いているのに音がない。
けれど、私に聞こえるそれは”音”を持ちその言葉の”意味”を伝えてくるのだ。
そして、ぼんやりとエコーのかかったその声は脳内に余韻を残しながら消えていく。
頭の中に直接響く様な声には覚えがあった。
両親の台詞もどこかで聞いた事のあるような…不思議な気分だ。
ーーー私はどこでこれを?ーーー
『さ、行こう』
「どこに?」
父に手を引かれ体勢を崩しながら歩き出す。
顔を上げれば、雲一つない青空が広がっていて…そのずっと先には真っ黒な雲が空を覆っていた。
晴天の中、傘を持つ両親はあそこへ向かっているのだろうか?
2人とは違いハッキリと自分の口から音として出てきた私の言葉に傘を掲げて微笑む父を見つめた。
そこで私はある事に気付くーー弟の姿が無いのだ。
「待って、パパ!まだ…「姉さん」
父の手を離して来た道を戻ろうとした私にかけられた声に動きを止めた。
「姉さん」
もう一度、私に振り向くのを求めるかのように紡がれた声は私と同じ様に音を持った声だった。
そうだ…私、夢を見たんだーー成長した弟が私を呼ぶ夢を。
でも、これが同じ夢だとは思わない。
だって、私は貴方が誰か知っているもの。
前回の様に貴方を見て「誰?」なんて首を傾げたりしない。
少し寂しげに笑う貴方の顔なんて見たくないの。
「セブルス」
振り向いて視界に入れた弟は、背が高くて父に似てハンサムだ。
黒一色の弟に名前を呼んで笑いかければ、弟は嬉しそう口角を上げた。
