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コウモリと黒ウサギ

第1章 大切な宝物


これは私がまだ小さい頃の話。

とても小さかったその頃の記憶なんて酷く曖昧で夢ではないのかと錯覚してしまう様な事ばかりだ。

でも、この事だけは今でもはっきり覚えてる。
実際に私が体験した、確かにそこに存在したモノだ、と自信をもって言えるわ。



「ママ」

ソファに座る父と母のすぐ側でクリスマスプレゼントだった父手作りの積み木で遊んでいた私は、父が母に言った気遣いの言葉に顔を上げて2人を見た。

母の大きなお腹に手を添えて心配そうな顔をする父に私は不安を覚えて、積み重ねたものが崩れるのも気にせずに、少し乱暴に手に持った積み木を空中で離して2人に駆け寄る。

「なぁに?」

大きな父の手に自分の手を重ねながら、母は私を見つめる。

「いたい?」

まだ簡単な言葉しか解らない私は、2人の手に小さな手を重ねながら尋ねた。

一瞬キョトンとした母は父に視線を送った後、ふふっと笑って意地悪な顔をして父にこう言った。

「あなたのせいでファブまで不安になってしまったみたいよ?」

母の言葉に困った様な父を横目に、母は「優しい子ね」と言って空いている方の手を私の手に重ねて続けた。

「ありがとう、ファブ。ママは大丈夫よ、痛くないから心配しないで」

柔らかな笑みを浮かべる母の顔と母の手にサンドイッチされた自分の手を何度か交互に見た私は小さく返事をしながらコクリと頷いた。

私の返事に安心したのか父は満面の笑みの後、片手でヒョイと私を抱き上げ、気がつけば私は父の膝の上で…慌てて父を見上げる為に後ろを振り向こうとする私より早く父は私を強く抱き締めた。

強い力に「う、…」と声をあげる私を知ってか知らでか更に頬ずりをする父。

「この子は幸せ者だな。ファブールみたいに優しいお姉ちゃんがいて」

頬に父のキスを受けながら「お姉ちゃん」について考えてみたけど解らなくて諦めた。
でも、褒めらている事は理解出来た私は嬉しくて「うん!」と答えたのだった。

私の自画自賛な返答に2人は笑い合い、突然の眠気に目を擦る私の頭を撫でてくれた。

「安心して眠くなったのね」

「俺が寝かせてくるから、君は安静に。いつ生まれてもおかしくないんだからな」

ウトウトしていた私は急な浮遊感に覚醒しかけたが、父が歩く振動と背中を摩る暖かな手に瞼が落ち、すぐに深い眠りについたのだった。
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