第1章 降って湧いた妖精?
夜。
アパートの階段を上がる足音がやけに響く。
わたしはどうやって帰ってきたんだろう?
下校途中の記憶がまるでない。
わかるのは、失恋したということだけ。
「……うわあああ!もう嫌だあ!」
玄関に飛び込んで廊下に突っ伏した。
わたしは制服のまま寒い街をふらふら歩いて帰ってきたんだろう。脚が寒いし、バスを使った記憶がない。
今日は最悪だ。
最悪な日だ!
用心のために鍵をしめてから部屋に入る。
頭に浮かぶのは榎本くんのこと。
ぶんぶか頭をふって残像を追い出した。
「お腹すいたな…」
今月のバイト代はまだ入らないし、昨日作ったケーキでも食べるか。
今日は、わたしの誕生日なんだよ?
「泣ける」
といっても涙なんて枯れてる。とっくに。
貧しくてやってけない。母は放浪癖があって、海外で自由気ままに売れない画家をやっている。
父親とは、複雑な関係。
仕送りだけはしてほしくなかった。
「姉ちゃん?」
部屋の奥から弟の蓮の声がした。