第11章 勝つためには……?
次の電車がくるまで、まだ結構時間がある。
それまで土方と二人かよ…とか考えたら、気分が悪くなってきて、は「ハァ~…」と大きなため息をついた。
そのため息が聞こえて、気に障ったのか、土方がのことをギロリと睨みつけてきた。
土方は、のことを睨みつけながらベンチから立ち上がった。
「…、ちょっと面貸せや」
そんな土方の言葉に、はピクンと反応した。
チッと舌打ちをしながら「またかよ」と呟き、ポケットに手を突っ込んだは、あからさまな嫌な顔。
土方は、「負けたくねぇならついてこいよ」と一言残し、に構わず駅のホームを出口へと向かっ て歩いていった。
小さくなっていく土方の背中を睨みつけながら、再度舌打ちをした。
本来なら、一分一秒だって傍に居たくない男。それが、にとっての土方。
臭いモノと嫌いなヤツには蓋をしろ!って言うのが、独自の理論。
関わらないのがイチバンに決まってる
土方に関わらずに生きていけたら、どんなに幸せかとも思うが、そんなことは、どちらかが職を失うかしないかぎり無理なことも分かっていた。
負けたくねぇならついてこい、か。
土方に言われた言葉を、頭ん中で数回繰り返した。
「…俺だって、負けたくねぇし」
ギュッと拳を握ったは、土方には聞こえないようにそう小さく呟いた。
そしては、本来なら、一分一秒だって傍に居たくない男の背中を追いかけた。
負けたくない、 ただその一心で。
電車に乗ることを辞め駅を出た二人は、寄り道もせずに真っ直ぐ目的地を目指した。
前を足早に歩くのは土方。その後ろを3メートルの距離を維持しながらついていくのが。
すれ違う人達に、まさか二人が連れだとは思わせもしない距離。勿論、そこに会話はない。
気分が乗らないのは、両者とも同じだった。
駅裏。シャッターが閉められたままの飲み屋が並ぶ通りの奥に、お化けでも出るんじゃねーかって 言っても大袈裟じゃない建物が一つ。
実際、女の幽霊を見たっていう噂もあるその建物の中に、先を歩く土方は、躊躇も見せずに入っていく。