第5章 strategie⑤
「電気つけないでなにやってるんですか?」
笑いながらそう言う彼女を俺は涙を拭かずに眺めていた。
「生姜焼きつくりますね。」
パチンと電気のスイッチをつけると部屋がパッと明るくなった。
俺とヒロカは一瞬目があう。
「え…光一さん…大丈夫ですか?」
俺の涙を見て彼女は驚いたように駆け寄ってきた。
俺がなにも言わずにヒロカを抱きしめると、彼女は俺のアタマを優しく撫でた。
子どもをあやす母親のように、その手が大きく暖かく感じた。
「俺な…」
何も考えていないのになぜか言葉が走った。
「俺な…15歳のとき東京でてきて、さみしいでしょ?ってよく言われてた。」
「うん。」
ヒロカは何も言わずに静かに相槌をうつ。
「でも仲間もいたし、友達もできたし、毎日合宿所で騒いでたし、本当にさみしくなかったんよ。」
「うん。」
「日々いろんなことがあって、デビューして、ドラマでてライブして舞台やって。本当になにも考えられないくらい毎日忙しくてさみしいなんて感じなかった。」
「うん。」
「でもな。」
「うん。」
「でも、こうやってヒロカが俺の胸の中にいて、心臓の音も聞こえて一番近くにおる今が、一番さみしい。」
「うん。」
「なんでやろ。」
「なんでだろうね。」
ヒロカは笑っていた。
俺はその笑顔を思い出しながら、ヒロカをもう一度強く抱きしめた。