第4章 strategie④
わたしは言われた通りにタクシーに乗り、一度訪れたことのある、高級そうなタワーマンションに停めてもらった。
入り口の受付の人に通して貰って、わたしはエレベーターに乗る。
マンションに受付があるって、一体この部屋はいくらするのだろうか。
そんなことを考えながら部屋の前のインターホンを押すと、ガチャリと重い扉が空いた。
そこには久々に見る光一が立っていた。
その姿にわたしは見惚れた。
さっきまでのタクヤのやり取りは一瞬なかったことになった程だ。
かっこいい。
サラサラの髪がにあっていて、本当に王子様みたいだ。
光一は潤んだ切ない目でこちらを見つめ、わたしを強引に引き寄せ、扉を閉めた。
そして、優しく抱きしめる。
光一の心臓の音がわたしの体全体にしみ渡った。
暫く二人で会話も交わさずそうしていると、時が止まったようだった。
これが永遠に続けばいい。
なにも不安のない。
この人の胸に抱かれていると、わたしは全てを忘れることができた。
過去の辛いことも、自分の汚さも愚かさも全て彼の胸で浄化される。
わたしはまた泣いた。
ずっと戦ってきた。
自分の人生と。
自分の運命と。
人を傷つけて、蹴落として、それでも戦い続けなければいけなかった。
戦うことが生きることだと思ってた。
でも彼の胸で泣いてるとき、わたしは幸せだと初めて感じる。
人は幸せのために生きるのだと、そのために戦うのだと気がついた。
この年になって、彼に出会って初めて大切なことに気がついたのだ。
もう遅い。
遅すぎる。
光一はわたしが泣いてることに気がつき、体を離した。
そうして、指でわたしの涙を拭いて、こう言った。
「ヒロカ…会いたかった。」
そうして、口づけを一つ落とした。